外国人雇用のDD(デュー・デリジェンス)のポイント

企業合併や企業買収の際、その企業での外国人雇用が合法なのか不法就労なのかを精査することは非常に重要です。万が一、不法就労をさせてしまった企業は、不法就労助長罪に問われる可能性があるからです。本稿では、不法就労とは何なのか、不法就労の代表事例、不法就労させないために企業が注意するポイント等を詳しく解説します。

不法就労とは何か?

不法就労助長罪について説明する前に、まず、不法就労とは何かについて解説します。厚生労働省の公式サイトには、不法就労を次のように定義しています。

1.我が国に不法に入国・上陸したり、在留期間を超えて不法に残留したりするなどして、正規の在留資格を持たない外国人が行う収入を伴う活動

2.正規の在留資格を持っている外国人でも、許可を受けずに、与えられた在留資格以外の収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動

 

上記1の例としては、偽造パスポートなどで不法入国してそのまま日本で就労しているようなケースです。これは分かりやすいですね。

上記2については、最低限の出入国在留管理法(入管法)の知識がないと判断が難しいかもしれません。簡単に説明すると、日本に滞在する外国人は、一部の例外(米軍等)を除き、何等かの在留資格を持っています。そして、在留資格ごとに、行ってもよい活動が決められています。例えば、特定技能(介護)を持っている外国人は、介護施設内で介護の仕事しかできません。細かいですが、訪問介護さえも認められていません。このように、その外国人が持っている在留資格によって、できる仕事、できない仕事が明確に決められています。そして、その在留資格では認められていない仕事をすると、不法就労に該当するのです。

不法就労事件の実態

不法就労の実態について、具体的にイメージをもらうために、法務省が発表している「令和3年における入管法違反事件について」の資料を基に解説します。

まず、不法就労者数の推移ですが、令和3年には約1万3000人の不法就労者がおり、近年微増傾向です。男女別では、男性が9,634人で不法就労者全体の約72.7%、女性が3,621人で27.3%を占めています。 年齢別では、20歳代が一番多く、不法就労者全体の47%となっています。就労内容別では、男性は「建設作業者」が最も多く、次いで「農業従事者」、「工員」の順となっています。女性は「農業従事者」が最も多く、次いで「工員」、「飲食関連以外のサービス業従事者」の順です。

また、不法就労者の国籍は、ベトナムが7,845人と最も多く、不法就労者全体の約60%を占めた。 また、ベトナムに次いで、中国、タイ、インドネシア、フィリピンの順となっており、これら5か国だけで全体の約94%を占めています。

そして、注目していただきたいことは、不法就労の期間です。不法就労者の中には、長期間、日本で働いている人もいるようですが、不法就労者として退去強制処分(強制送還)される外国人の多くは、不法就労期間が2年以下です。6ヶ月以下の不法就労で退去強制になる外国人は、不法就労全体の4分の1です。つまり、数ヶ月だけの不法就労であっても、不法行為として罰せられるということです。

不法就労助長罪とは何か?

不法就労助長罪とは、外国人に不法就労をさせたり、不法就労をあっせんしたりする罪のことです。出入国管理及び難民認定法 第73条の2に規定されており、3年以下の懲役もしくは 300万円以下の罰金となります。また、その両方が科される場合もあります。

注意していただきたいのは、不法就労だと知らなくても罪になるということです。言い換えると、知らなかったでは済まされないということです。ですから、外国人を雇用する際は、その雇用が不法就労に当たらないか、しっかりと確認しましょう。確認内容の詳細は後述しますが、本人が持っている在留カードの期限をチェックする、本人が持っている在留資格と仕事内容が合致しているかの確認が必須です。この確認を怠ると、不法就労助長罪になる可能性があります。一度、刑罰を受けると、前科が付くだけでなく、今後仕事を行う上でいろいろな不具合が生じます。例えば、不法就労助長罪の前科がある場合、一定期間、技能実習の監理責任者にはなれません。職業紹介責任者の欠格事由にも該当します。

不法就労のあっせん行為になる行為とは?

不法就労のあっせん行為とは、不法就労の外国人を企業に紹介することだけでなく、不法滞在者に仕事を紹介することです。また、不法就労者を自宅に住まわせたり、宿舎を提供したり手配したりすることもあっせん行為に含まれます。外国人を直接雇用していなくても、不法就労助長罪になります。そして、不法就労と知らずにあっせんしても罪になる可能性があります。十分注意してください。

知らなくても、罪になる

「知らなくても罪になる」という点について、具体例で説明します。例えば、自社で合法的に働いている外国人がおり、その外国人の紹介で別の外国人をアルバイトで雇ったとします。自社の社員の紹介だからと安心して、在留カードを確認しなかった場合、罪になるでしょうか。これは罪になります。在留カードを確認しないことは過失と判断されるからです。また、在留カードの見方がよく分からなかったが、誰にも聞かなかったという場合も過失とみなされます。現代社会では、インターネットで検索すれば、在留カードの見方を分かりやすく解説した記事が大量に出てきます。動画での解説もあります。また、無料で外国人雇用の相談ができる公的機関もあります。こうした状況ですので、知らなかったということは通用しなくなっています。

なお、こうした確認を一通り行ったけれど、在留カードが巧妙に偽造されており、その偽造を見抜けなかったという場合は、罪にならない可能性が高いです。

名義貸しも罪になる

不法就労に関し、名義貸しもよく行われていますが、これも立派な罪になります。これは実際にあった事例ですが、IT企業の経営者が知人の外国人に頼まれて、そのIT企業で働いていることにして就労ビザを取ったことがありました。しかし、数年後に発覚し、その経営者は不法就労助長罪で逮捕されました。逮捕されてしまうと、たとえ不起訴になったとしても報道されます。会社名だけでなく、経営者のフルネーム、場合によっては年齢まで報道されます。非常に大きなリスクですね。なお、名義貸しで報酬を受けたかどうかは関係ありません。たとえ無報酬であっても、不法就労助長罪となります。

不法就労助長罪の代表事例

不法就労助長罪で検挙されている数は、年間で400件程度あります。意外と少ないと思われるかもしれませんが、毎日、日本のどこかで、誰かが検挙されています。気をつけてニュースを見ていると、何かしら不法就労関係で日本人社長や人材会社の幹部社員、弁護士、行政書士等が検挙されていることが分かります。以下、この数年で発生した代表的な事例を3つ紹介します。

事例1 絶対にやってはいけない不法就労助長

まず、絶対にやってはいけない事例から紹介します。これは、工場の経営者が、業者に頼んで偽造在留カードを作らせて不法就労させていた事例です。偽造在留カードの発覚数は年々増加傾向にあり、2020年に偽造在留カードの検挙数は790件ありました。また、加工技術の向上により、偽造の精度も年々巧妙になっています。一目見ただけでは本物かどうか判断できないような偽造カードも存在します。

そこで、法務省では、在留カードが有効なものかどうか、即時に判断できるアプリを無償で提供しています。「在留カード等番号失効情報照会」、「在留カード等読取アプリケーション」と検索すると出てきますので、ぜひ利用してみてください。在留カード等読取アプリケーションには、パソコン版とスマートフォン版があります。当職の私見では、圧倒的にスマートフォン版が使いやすいです。在留カードをスマートフォンにかざすと、約2秒で在留カードが本物かどうか判別してくれます。数値を入力する必要はなく、ただかざすだけで判別可能です。

事例2 法律で認められていない仕事をさせた

2つ目の事例は、外国人が持っている在留資格では認められていない仕事をさせたという事例です。これもよくある事例なのですが、ある工場では、通訳者として外国人を採用し、一定の専門知識を必要とする「技術・人文知識・国際業務」という在留資格を申請し、許可されました。しかし、実際にその外国人が従事していた業務は、工場内での単純な流れ作業でした。通訳の要素が全くない仕事です。この事件では、当該外国人を企業に紹介した人材会社の社長、在留資格申請を行った行政書士らが摘発されました。この事件は、大々的に報道され、大きなニュースになりました。

事例3 外国人雇用が少ない地域での不法就労事例

3つ目の事例は、ある離島で起こりました。本土から遠く離れた離島であるため、不法就労をさせた社長らは、「島なら大丈夫だと思った」と供述しているようです。「島なら大丈夫」、「田舎なら大丈夫」、「同業他社もやっているから大丈夫」ということはありません。突然、何の前触れもなく、当局の調査が入り、検挙されてしまいます。外国人雇用を安易に考えていると、大変なことになります。

不法就労をしていることが判明した時の対応

万が一、買収や統合予定の企業で雇用している外国人が不法就労であることが判明した場合、企業側が取るべき対応は2つあります。速やかに不法就労状態を解消すること、つまり当該外国人の解雇です。解雇については、労働関連法令も関わってきますので、労働基準監督署や弁護士、社会保険労務士等の専門家と相談しながら進めてください。当事務所から労働関係法令に強い弁護士等のご紹介も可能です。そして、不法就労をしている外国人に対し、最寄りの出入国在留管理局に出頭するよう促してください。不法就労の外国人を匿ったり、住居を提供したりすると、不法就労助長罪になります。

外国人雇用に関するDD(デュー・デリジェンス)の留意点

外国人雇用に関するDD(デュー・デリジェンス)を行う上での留意点を以下にまとめました。業種や職種によって、細かい点でチェックすることは異なるのですが、参考になれば幸甚です。

雇用する外国人の在留資格は適正か?

外国人従業員が在留カードを持っているか、その在留カードが偽造ではないか、在留期限が切れた外国人を雇用いていないか?などをチェックしてください。

※在留期限は、本人が常に携帯している在留カードに記載されています。

現在、約30の在留資格があるのですが、それぞれ、行ってよい仕事、禁止されている仕事があります。業種や職種によって、細かいルールがあるので、ここで全て説明することは難しいのですが、ポイントは下図となります。

外国人雇用状況の届出

外国人を雇用した場合(アルバイト含む)、就労可能な在留資格(就労ビザ)の申請に加え、ハローワークに「外国人雇用状況の届出」を行う必要があります。

注意していただきたいのは、在留資格を管轄する法務省出入国在留管理局ではなく、厚生労働省管轄のハローワークへの届出が必要だということです。就労可能な在留資格を持っている、つまり法務省で許可を受けているから大丈夫ということにはなりません。法務省と厚労省は、この点では連携していませんので、注意してくださいね。

また、外国人雇用状況の届出には、提出期限があります。雇入れの場合は翌月10日までに、離職の場合は翌日から起算して10日以内に行ってください。なお、当該外国人が雇用保険に加入している(加入する)場合、この届出は不要です。

留学生をアルバイトで雇用している場合の留意点

留学生や家族滞在の外国人をアルバイトで雇っている場合、週に28時間以内の勤務を守ってください。この週28時間というのは、月平均ではありません。年平均でもありません。

週のどこから数えても、週に28時間以内となっていることが必要です。例えば、下記のような状況は、合法か非合法か分かりますか?

1/1(日)6時間

1/3(水)6時間

1/5(金)8時間

1/6(土)8時間

1/7(日)6時間

1/9(火)6時間

1/11(木)2時間

答えは、非合法ですね。1/5~1/12までの1週間の就労時間が28時間を超えています。

実際には、ごく稀にこうした事態が生じたとしても、それのみをもってペナルティを受けることは少ないのですが、法律的にはこういう計算になるということを知っておいてください。また、当該留学生が他のアルバイトをしている場合、合算して週に28時間以内にする必要もあります。

「他社でもアルバイトしているなんて知らなかった」という言い訳は通用しませんので、注意してください。また、留学ビザを持っているが、既卒者である外国人は、日本の会社等でアルバイトすることはできません。留学生が学校を卒業した日に、資格外活動許可が無効となるためです。たとえば、卒業した日が3月25日で、留学ビザの期限が7月1日まである場合でも、3月25日以降は、雇用することが禁止されています。

専門行政書士が外国人雇用に関するDD(デュー・デリジェンス)をサポートします

外国人雇用に関するDDは、労働基準法や労働安全衛生法、職業安定法などの労働関連法令だけでなく、出入国在留管理法(入管法)や国際慣習法の高度な専門知識が必要となります。入管法の建前と現場の実情が乖離しているケースも散見されますが、この状態を放置しておくと、不法就労になる可能性もあります。当事務所では、外国人雇用に関するDDのサポートを行っております。具体的には、企業で働く外国人(外部委託社員含む)の在留状況を精査し、改善策も含めて報告書にまとめるといったことを行っております。

個別事案によって、サポート内容は異なりますので、まずはメールにてお問い合わせください。初回無料のオンライン相談(ZOOM)にて、貴社の状況をお聞きし、費用も含めて最適な提案をさせていただきます。

 

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