2019年から始まった特定技能ビザを持つ外国人が25万人を超え、彼らの法定支援を行う登録支援機関も1万社を超えました。こうした中、支援業務に関するトラブルも増えています。本記事では、こうしたトラブルを未然に防ぐための支援委託契約書のポイントを紹介します。
支援委託契約書は法務省様式がベースとなる
特定技能外国人の支援を行う登録支援機関の数は、年々増えており、2024年には、ついに1万社を突破しました。今後しばらく、その数はさらに増加していく見込みです。登録支援機関として登録されているのは、人材会社、監理団体、士業などが多いですが、具体的な支援内容は支援機関によって異なります。登録支援機関が行うべき支援内容は、法務省が公開している「登録支援機関 運用要領」に細かく書かれており、支援委託契約書の様式も公開されています。ですから、委託契約を結ぶときには、この様式を活用することが多いでしょう。この様式には、法律で定められた10種類の義務支援、委託料、費用負担、契約期間、契約解除方法など、基本的な内容が網羅されています。
しかし、あくまで基本的な内容となっているため、必要に応じて下記の要素を織り込んだ特約などを締結しておいたほうがよいでしょう。
任意支援の内容について
特定技能運用要領に記載のある義務支援(法定支援)だけではなく、任意支援を行う場合、その内容についても特約などで記載しておきましょう。具体的には、協議会への加入支援や、
出入国在留管理局への届出書類作成支援、日本語教育などの支援があげられます。こうした任意支援については、何をどれくらいの頻度で実施するのか、文書で残しておかないと、後々トラブルになることがあります。
雇用企業→支援機関への情報提供
労働条件が変更になった場合や退職した場合、必要な資料の提出を義務付ける条項も入れておきましょう。これがないと労働条件の詳細や退職理由が分からず、適切な支援を行えない可能性があります。
支援担当者の訪問回数
登録支援機関によっては、義務支援で定められた回数よりも多く、支援担当者が雇用企業を訪問して丁寧にサポートするケースも多いです。こうした場合、契約書で訪問頻度や回数を明示しておきましょう。こうすることで雇用企業の担当者も安心します。毎月、双方の都合を合わせてアポイントを取るのも大変ですから、訪問日に次回の訪問日を決めてしまうのもよい方法です。
登録支援機関の責任範囲
想定外のことが起こった場合に、過剰に責任を負わされてしまうことを防いだり、相手企業との交渉を有利に進めたりするためには、契約書で「自社がどこまで責任を負うか、あるいは負わないか」を明確にしておくことが重要です。
例えば、支援対象の外国人が社内でトラブルを起こしたり、会社の備品を持ち逃げしてしまったりしたときに、支援機関としてどこまで責任を持つのか、あるいは持たないのかを明確にしておきましょう。
契約書の記載例としては、「登録支援機関は、善良なる管理者の注意義務を持って支援を行う」という文言や、「登録支援機関は善管注意義務をもって支援を行うが、支援対象の外国人が起こした紛争やトラブルに関して損額賠償責任等を負わない」等といった文言を使うとよいでしょう。
秘密保持
法務省の様式には、秘密保持に関する記載がないため、特約等で決めておく必要があります。記載例は一般的なもので構いません。一例を下記に記します。
・契約の双方は、相手方の個人情報を厳重に管理し、これを外部に漏洩させてはならない。
・契約の双方は、本件業務遂行のため相手方から提供を受けた情報を正当な理由なく第三者に漏洩することを禁止し、守秘義務を負うものとする。また、上記情報を第1条の業務の範囲以外の他の目的で利用してはならないものとし、契約終了後も同様とする。
支援契約終了後のサポート
特定技能外国人を雇用する企業の中には、最初の数年だけ登録支援機関に委託し、いずれは自社支援に切り替えたい(内製化したい)と考えている企業もあります。ですから、将来的に自社支援に切り替わった場合の引継ぎをどうするか、引継ぎ後に質問が出た場合の対応をどうするかも決めておきましょう。決めておかないと、忘れた頃に、雇用企業から質問があり、資料を探すだけでも大変なことがあります。
委託費用の徴収方法
契約書の文言が十分でないために委託料を取り損ねることがないよう、委託費用については、その金額だけでなく、支払期日や支払方法を明確に決めておきましょう。また、支払いが遅れた場合の措置も明記しておくと安心です。
その他、契約書に記載したほうがよいこと
クライアント(雇用企業)から、こんなことを言われても困るといったことを書き出し、それを盛り込むとよいでしょう。例えば、特定技能外国人が、会社の備品を持ち逃げした場合に、「登録支援機関の管理不行届きだ」とか、「備品の費用を弁償してほしい」などと言われても困りますよね。実際の現場では、クライアントとの関係性や今後の取引のことも考慮して、妥協策を取ることになると思いますが、契約書に明確な記載があるだけでも交渉が有利になります。
特定技能外国人の支援契約書に関して、個別具体的に相談されたい場合、恐縮ですが、下記より有料相談をお申込みください。有料相談の特典として、「支援契約書の特約」の雛形を提供しております。法務省様式には記載されていないけれど、特約で記載したほうがよい内容です。ご検討いただければ幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この記事を作成した人 つくばワールド行政書士事務所 行政書士 濵川恭一