外国人の就労ビザ 行政書士の相談事例紹介【製造業で文系大学卒業者を採用するケース】

相談事例

電子機器メーカーのA社では、最近、アジア圏からの引き合いが増えてきました。今後の海外展開を視野に入れ、日本の4年生大学を卒業するベトナム人留学生を採用することにしました。はじめての外国人採用ですので、就労ビザ取得に失敗することだけは絶対に避けたいと思っています。

行政書士:本日は、ベトナム人内定者の就労ビザのご相談ですよね。最初に、本人の履歴書を拝見してよろしいでしょうか。2022年3月に都内の大学を卒業されるのですね。卒業証書と学位証明書は発行されていますか?

A社:はい、大学から両方が発行されています。

行政書士:ベトナムでも大学を卒業されているのですね。この卒業証明書はありますか?

A社:はい、こちらです。

行政書士:はい、学士に相当するベトナム語の文言が入っていますね。通常のベトナムの大学の書式なので、問題ないかと思われます。念のためですが、本人は、この大学を卒業したと言っていましたか?それとも途中で中退して、日本に留学したと言っていましたか?

A社:いえ、特に聞いていないのですが、卒業証書を持ってきたので、卒業したものだと思っていました。

行政書士:そうですか。では、この点は本人に再度確認しますね。万が一、卒業していなくても、日本の大学を卒業しているので、今回の就労ビザの学歴要件を満たしていますが、ベトナムの大学を卒業していないのに、卒業証書らしきものを提出してそれが虚偽であることが判明した場合、とんんでもないことになりますから。貴社にとっても、本人にとっても大きなマイナスになります。

A社:はい、よろしくお願いいたします。

行政書士:次に貴社の概要、事業内容について、お聞かせいただけますか?

A社:はい、弊社では、主に産業機械に使用される電子部品を製造販売しております。今年で設立7年目になります。これまでは、国内販売が中心だったのですが、最近、展示会などに出展したこともあり、海外、特にアジア圏からの引き合いが増えてきました。弊社には、英語を話せる営業担当者がおりますので、これまでは彼に全て任せていたのですが、彼だけでは対応しきれなくなったのと、今後は弊社から積極的に海外展開していきたいと考え、今回の採用に至りました。

行政書士:ありがとうございます。そうすると、今回内定された方の仕事内容は、海外も含めた法人営業ということになりますか?

A社:はい、そうです。本年度、小さいものも含めて3つの展示会に出展する予定ですので、ベトナム語での商品案内作成、各種資料の翻訳、ベトナム系企業への案内作成、送信などを担当します。また、実際に問い合わせがあった時の対応、ベトナムでの販売代理店の開拓、連絡調整なども担当させたいと考えております。

行政書士:そうなんですね。その仕事内容でしたら、「技術・人文知識・国際業務」という就労ビザに該当します。このビザは、通称で技人国(ぎじんこく)といって、留学生を採用した時に、よく利用されるビザです。技能実習ビザや特定技能ビザのような現業労働系のビザと違って、毎月の管理や報告が不要なので、企業さんにとっては負担の少ないビザと言われています。

A社:そうなんですね。技能実習ビザや特定技能ビザは管理が大変だと聞いていたので、助かります。

行政書士:あと、今回のビザの審査では、雇用企業の事業安定性や継続性なども審査されます。貴社の規模ですと問題ないと思うのですが、念のため、決算書類を拝見できますか?

A社:はい、どうぞ。直近3期は黒字決算となっております。

行政書士:ありがとうございます。これも、念のための質問ですが、貸借対照表にある「長期借入金」の理由は分かりますか?

A:はい、それは、北関東の工場を全面改装した時の借入金です。大手都市銀行から借りており、遅滞なく返済しております。

行政書士:そうですか。あと、入社後、現場研修のようなものはありますか?

A社:逆にそこをお聞きしたかったのですが、今回取得するビザでは、現場研修はだめなんでしょうか?

行政書士:製造業、サービス業など多くの業種で、新入社員が入社後に一定期間、現場実習を行うケースはよくあると思います。たとえ営業部門や管理部門での採用であっても、現場を知らないことには話にならないというケースも多くあると思います。

【現場実習が認められるケースとは】

原則、就労ビザでは、現場実習、つまり現業に従事することができません。ただし、下記3つの条件を全て満たし、それを論理的に説明し、かつ客観的に証明することができれば、認められる可能性が高いです。

・入社当初に行われる研修の一環であること

・本来業務(管理業務等)を行う上で、必ず必要となるものであること

・日本人についても、入社当初は同様の研修に従事すること

この論理的説明および客観的証明という部分が胆です。単純に、「現場実習は必要だし、それが業界の常識だから」という理由では、認められません。勿論、日本人の場合はその理由で十分なのですが、外国人が日本で働く、しかも現業に従事するための理由という点では不十分です。こういう理由をつけて申請しても、ばっさりと不許可になります。

外国人が現業にどんどん従事してしまうと、日本人の雇用機会が奪われ、賃金体系の崩壊が進み、日本経済にとってマイナスだらけなので、その点は法務省入国管理局でも厳しく審査しています。

この論理的説明や客観的証明という部分は、おいおい詳細を詰めていきたいと思います。それでよろしいでしょうか。

A社:承知しました。

行政書士:次に、海外展開の根拠を出したほうがスムーズかと思われます。例えば、過去の展示会で、海外の会社の名刺などをいただいたと思います。何枚くらいありますか?

A社:えっと、〇枚くらいはあると思います。弊社ブースに立ち寄ってカタログをお渡しした方については、データで記録しております。

行政書士:ありがとうございます。現状、英語など外国語のカタログ、会社案内などはありますか?

A社:はい、現状は英語だけですが、あります。

行政書士:今後の海外進出にあたり、幹部社員や営業社員の方が海外視察に行かれたことはありますか?

A社:はい、昨年春、当社の社長と担当取締役が、中国上海の海外視察ツアーに参加しております。その時にいただいた資料が多数ありますね。でも、中国しかないですね。その当時は、ちょうど中国企業からの引き合いが多かったものですから。。。

行政書士:はい、ベトナムではなくても、海外進出の具体的な計画があるという客観証拠にはなりますので、お手数ですが、その時の資料もご用意ください。こちらで精査して、有利になりそうなら整理して提出いたします。

A社:はい。(コメント追加していただいてもOK)

書士:あと、今回の募集はどのような媒体を使用されました?

A社:はい、自社採用サイト、大学への求人掲載などを利用しました。

書士:求人情報には、今後の海外進出の計画などを書かれましたか?

A社:えっと、大学への求人情報にだけ記載しておりますね。

書士:大学の求人票の控えはありますか?

A社:はい、あります。これも有利になるんですか?

行政書士:はい、あくまで客観的な根拠書類なのですが、審査する当局に対して、日本人が集まらないから外国人を募集したとか、マイナスの心証を与えないために、有利になりそうなら提出したいと思います。あと、細かい点は、まとめてメールさせていただきますね。本日はお時間いただき、ありがとうございました。

A社:はい、こちらも用意すべき書類を早急に準備したいと思います。よろしくお願いいたします。

製造業の会社で技人国ビザが許可されるためのポイント解説

  • 本人の仕事内容が、法人営業、マーケティング、貿易実務など、ホワイトカラー系の仕事であること
  • 上記の本来業務を行うための一定期間の現場研修は条件付で認められる
  • ただし、現場研修がある場合、それを永続的に行うのではないかとの疑義を持たれやすいため、個別の対策が必要

 


この記事を作成した人 つくばワールド行政書士事務所 行政書士 濵川恭一

 

 

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