外国人技能実習制度 建前と現実の乖離はなぜ起こるのか?

本稿は、月刊人材ビジネス誌 2022年9月号の内容を加筆修正して、掲載しております。


昨今、課題の多い外国人技能実習制度の見直しに関する議論が活発化しています。そこで本誌でもあらためて技能実習制度の問題点や課題を整理するとともに、適正な実習生管理をしている監理団体や現地送出機関がどのように実習生に向き合っているのか、取材した内容を紹介します。

<取材協力>

公益財団法人東亜総研、HIKARI協同組合、協同組合BMサポートセンター

コロナ禍で加速する技能実習制度が抱える課題                           

法相勉強会で指摘された4つの課題

2022年7月29日、古川禎久法務大臣は、国内外から批判を受けている技能実習制度に関し、「関係省庁と見直しを議論し、長年の課題を“歴史的決着”に導きたい」と語りました。技能実習制度の本来目的は、発展途上国の若者らに日本の優れた技能や技術を学んでもらい、母国に持ち帰って母国の発展に寄与することです。ですが、全く違う目的で活用されているケースが多いのも周知の事実です。

では、実際の現場では、どのような問題が起こっているのでしょうか。法相勉強会では、以下の4つの課題が指摘されました。

技能実習制度の目的と実態が大きく乖離している。

技能実習制度の本来目的は、発展途上国の若者らに日本の優れた技能や技術を学んでもらい、母国に持ち帰って母国の発展に寄与することです。つまり、一言で言うと国際貢献です。特に、日本は製造業において、製造加工技術だけでなく、生産管理技術、産業機械の保守保全においても高い技術力、オペレーションのノウハウがあります。ただ、実態としては、多くの技能実習生は、ある特定の製品の、ある特定の作業、つまり決められた作業だけを一日中行っています。雇用先によっては、3年間、全く同じ作業しか担当させてもらえなかったという実習生もいます。また、ニュースにもなったのでご存じの方も多いと思いますが、ある縫製工場では、技能実習生がタオルしか作っていないのに、「誰かに仕事内容を聞かれたら、婦人服、靴下も作っていると答えなさい」と指導されていたことが問題になりました。将来のある若い技能実習生達に、嘘をつくように指示すること、これは国際貢献とは対極にあります。

技能実習生の日本語力が不十分であり、意思疎通が困難なケースがある。

従来から、技能実習生の日本語力の低さについては各方面から指摘されていました。3年間も日本で働いているのに、日本語力がほとんど向上していない実習生がいるという事実は大きな課題です。決められた作業だけを一日中行っているという状況では、日本語力を向上させる機会に乏しいのかもしれませんが、実習生側の日本語学習に対する意欲も概ね低いと感じます。

また、この状況に拍車をかけたのが新型コロナウイルスです。コロナ対策のため、多くの送り出し機関では、来日前の日本語研修をオンラインで行うことが増えました。オンライン研修では、日本企業の文化や規律正しさといった習慣を会得することは難しく、この点でも来日時に戸惑う実習生もいるようです。

技能実習生は不当に高額な借金をして来日している。

これも周知の事実ですが、大半の技能実習生は、相当な借金を背負って日本に来ます。

通常、技能実習生は、来日する前に、送り出し機関において6ヶ月程度の日本語研修を受けるのですが、その研修費用その他として、日本円で数十万円の費用を支払っています。例えば、ベトナムの場合、研修費用の相場は60万円前後です。現時点において、日本とベトナムでは経済格差がありますから、我々日本人の感覚からすれば、120~150万円ほどを負担していることになります。20才前後の若いベトナム人がそんな大金を持っていませんので、多くの技能実習生は借金をしています。技能実習生のためにお金を貸し出す専門業者もあります。

また、技能実習制度の複雑な仕組みにも借金の遠因があります。技能実習生の受入には、3つの法人(団体)が関わっており、それぞれに利害関係が存在します。まず、送り出し機関は、技能実習生を受け入れてくれるよう日本にある監理団体に営業をかけます。送り出し機関の営業担当者は、非常に積極的に営業をします。筆者は、コロナ前に、ベトナム、ミャンマー、中国にある複数の送り出し機関を訪問し、見学させていただいたことがあるのですが、ただ見学しただけの筆者に対しても、月に1回以上は必ず営業のメールが来ます。監理団体への営業活動はそれ以上に積極的に行われています。そして、監理団体も、技能実習の受入企業に提案をします。ここで、適正な監理団体(今回取材させていただいたような監理団体)であれば、受入企業に対し、技能実習制度の目的、関連法令をきちんと説明し、その目的や制度に合わないようであれば、受入を断ります。しかし、そうでない監理団体があるのも事実です。

営業活動にはお金がかかります。それが適正な金額であれば、問題はないのですが、過剰営業が存在しているのも事実です。特に、送り出し機関が、監理団体や受入企業に対して行う営業は、営業ではなく接待ではないかと思う時があります。例えば、監理団体や受入企業が、現地面接に行く際、その渡航費や宿泊費、現地での滞在費を送り出し機関が負担することがあります。そして、送り出し機関に行くと、立派な応接室に通されます。こうした営業にかかる費用は、技能実習生が支払う研修費から出ています。そして、営業にかかる費用は、技能実習生が支払う研修費の20~30%と言われています。つまり、過剰営業がなくなれば、実習性の負担は減ります。

原則、転職ができず、不当な扱いを受けても我慢するしかない。

現行の技能実習制度では、技能実習生は原則3年間、同じ職場で勤務することが求められています。技能実習制度の本来目的は、日本の優れた技能を習得することですから、同じ会社でじっくり腰を据えて学ぶ必要性があるからです。ただ、万が一、実習先で耐え難いハラスメントや未払い賃金等があっても、簡単には転職できません。この結果、実習先から姿を消す技能実習生が後を絶たず、2021年だけでも、7167人が失踪しました。

技能実習の現場で起こっているその他の課題                            

過度な期待を抱かせる募集方法

筆者は仕事柄、元技能実習生に接することも多いのですが、多くの元実習生からは、「来日前に聞いていたことと違う。仕事内容もそうだし、給料も違う。職場環境や寮の設備も聞いていた内容と全く違う」と聞きます。詳しく聞いてみると、来日前に、送り出し機関の説明会では、「日本に行けば、これくらいの給料がもらえますよ。誰でもできる簡単な仕事ですよ。寮は一人1部屋ですよ」といった感じです。彼らは期待に胸を膨らませて来日したのですが、日本に来てがっかりすることが多かったといいます。

また、中国で看護師資格を持っていたある女性は、日本の介護施設で技能実習生として働いたのですが、「来日前には、看護士資格を活かせる仕事と聞いていた。日本の高度な医療現場も見ることができると。でも、実際は全く違う仕事だった。母国に帰って、日本でしていた仕事内容を聞かれても、恥ずかしくて言えないと思う」とコメントしています。

技能実習で学んだ内容が母国で活かせないという課題

技能実習生が母国に帰国後、技能実習で学んだ技能に関連する仕事につくケースは、非常に稀です。大半の実習生が、母国に帰国後、技能実習とは全く異なる仕事についています。技能実習で学んだ技能ではなく、日本語力を生かした職種についていることが多いです。具体的には、母国の日系企業に就職したり、母国で日本人向けにガイドをしたり、土産物屋で働いたりといったケースが多い。実際、筆者が、中国、ベトナム、ミャンマー、フィリピンを訪れた時に現地ガイドをしてくれた人は、全員が元技能実習生でした。今回の記事の話があり、久しぶりに彼らに連絡を取って聞いてみたところ、「技能実習によい思い出はない。辛いことが多かったけれど、お金のためだと割り切って働いていた。でも、今こうして日本語を活かす仕事ができているので、日本語を話せるようになったことだけは良かった」と語っていました。

このように、実際には、技能実習で学んだ技能より、日本語力が高く評価されます。また、地方出身者の場合、母国に戻っても、都市部に行かない限り学んだことを活かす職場がないという課題もあります。ですから、母国に帰国後、技能実習を活かした職に就くことを想定しないという制度改革が必要なのかもしれません。技能実習制度の目的と「職業選択の自由」は相反するものですが、雇用環境は常に変化しますので、現場のニーズとして、こうした改革も求められています。

採用のミスマッチを防ぐために現場で行われていること                        

ここからは、技能実習制度が抱える問題を起こさないための現場の取組みについて具体的に紹介します。

適正な監理をしている監理団体の取組事例

・技能実習生の面接前に、労働条件、宿泊費、水道光熱費の負担、日本語サポートの有無、企業のウェブサイト、宿舎の写真多数、先輩の体験談の動画等、できる限り多くの情報を募集依頼書に入れることにしている。多くの情報を共有して、来日後の実際の仕事内容や生活環境にミスマッチが無いように努めている。

・技能実習生の面接の際、送り出し機関側で通訳者を用意してもらうのではなく、日本側で通訳者を用意したほうが正確な通訳になることが多い。また、話が広がることが多い。例えば、送り出し機関側で、技能実習生に対し、「心配なことありますか?」と聞いても、特にないですと答えることが多いが、日本側の通訳者が聞くと、質問が出ることがよくある。

・面接では、技能実習生側から、一般的な自己紹介に加え、日本でやってみたいこと。技能実習の後、やってみたいことについてプレゼンをする。

・受入企業の担当者の口から、会社紹介や会社紹介動画を用意してもらうことをお願いする。送り出し機関で聞いていた内容と違っていた場合、この面接で判明するため、採用のミスマッチを防げる。

・技能実習生が重視する給料については、総額だけでなく、手取額を示す。実際に今いる技能実習生の給与明細書を見せて説明することもある。技能実習生によっては、残業手当に期待している人がいるが、残業が少ない現場である時には、正直に伝える。本人への正確な説明と納得が大事。夢の国に来るわけではないのだから、過度な期待を持たせすぎないようにする。

・技能実習生の応募書類については、偽装がないか細かくチェックする。過去には、ひらがなを全く読めない子もいた。また、母国で健康診断してから入国しているはずが、入国後の健康診断で病気が見つかったケースもある。母国での管理が杜撰であり、悪意がないケースもあるが、応募書類の信憑性については厳しく見る。

・受入企業への提案時、必ず、技能実習計画モデル例を見せ、必須作業があるかどうか確認する。必須作業がない場合は、無理やり対策せず、受入を断る。無理やり対策しても誰も得しない。

・技能実習や特定技能、外国人雇用に関する関連法令を勉強し、常に最新の知識を得ておくよう努めている。これが奏功した事例もある。ある菓子製造工場において、技能実習生の受入を検討した際、制度上、菓子製造では3年間の実習ができないことが判明。そこで1年間の技能実習を経て、特定技能(飲食料品製造業)に移行する対策を取った。いきなり特定技能では、本人達の負担が大きいが、この方法であれば、受入企業と本人の両方にとってメリットがあり、採用のミスマッチも防げた。

・地方にある受入企業では、技能実習生が社員旅行を楽しみにしている。仕事の閑散期には、実習生が旅行を企画し、実行している。このようなイベントは、SNS等にアップされ、これから技能実習を考えている母国の人たちも見る。人材の募集という観点でも、良い循環になっていると思う。

・アジアの幾つかの国では、小学校の時から自分の教室を掃除する習慣がない。すべて業者任せ。来日前の研修において、日本語研修だけでなく、上履きを履き、外の靴は下駄箱に入れ、掃除当番を決め、当番は掃除完了の報告をする。また、ごみの分別など、様々な慣習を経験させている。

現場取材から考察した見直しの一案

最後に、今回の取材等を通して筆者が考察した見直しの一案を紹介します。

何等かの形で接待禁止

少し論点がずれますが、国家公務員は、「国家公務員倫理規定」によって、利害関係のある民間事業者から接待や贈答品をもらうことを固く禁じられています。そして、地方公務員についても、ほとんどの自治体では、同じような規定があります。たとえ些少な金銭貸与でも禁止です。無償によるサービスの提供さえも禁止されています。もし違反すると、大きなペナルティを受けます。技能実習制度は法律によって定められた制度ですから、これに準じるようなルールができないかなと思います。

技能実習計画との乖離を減らすために

厚生労働省が公表している技能実習計画モデル例には、現代の現場の実情にはそぐわない作業が幾つかあります。例えば、昨今の製造現場では、半田ごてを使う作業ほぼ皆無です。機械オペレーティングに関しても、先進的な工場ほど、いちいち機械操作プログラムを入力しません。製品に貼付された作業手順バーコードを読み取ることが多いです。技能実習計画の改定ができればよいのでしょうが、かなりのコストと稼働がかかると思慮されます。ですので、現場の実情に応じた実習計画を認めるような余地があればよいと考えます。審査官の負担は多少増えるかもしれませんが、実態と異なる実習を無理やりやらせる必要がなくなり、計画との乖離は軽減されると思われます。

最後に、今回の取材に協力いただいた、協同組合BMサポートセンター、公財団法人東亜総研、HIKARI協同組合の皆さまには、厚く感謝を申し上げます。


この記事を書いた人 つくばワールド行政書士事務所 行政書士 濵川恭一

 

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