AIの進化に伴い、技人国の在留資格申請時に提出する雇用理由書(職務内容説明書)をAIに書かせるケースが増えています。本稿では、そのメリットとリスクについて考察します。
在留資格申請時に提出する雇用理由書とは
外国人をホワイトカラー職で採用する場合、原則として、技人国という在留資格(就労ビザ)を申請する必要があります。技人国ビザを申請するための必要書類の中に、職務内容を詳細に説明した文書(雇用理由書)という書類があります。現時点では、明確なルールや書式はなく、書式自由で作成することができます。ですから、AIに企業情報や求人票などの基本情報を読み込ませると、ある程度完成した雇用理由書が出力されます。
たたき台としては最強のツール
まず、一般的な雇用理由書に書く内容を図に示します。各項目300~500字程度、全体のとしては、2000~3000字になります。
AIで雇用理由書を作成するメリットは大きく3つあります。
1つ目は、各項目を網羅した内容で文章を作れることです。しかも、第三者である審査官が読んでも、ある程度分かりやすく、読みやすい文章にしてくれます。文章を書くことが苦手な人にとっては大きなメリットだと思います。
2つ目は、書類作成にかかる時間短縮です。筆者は、行政書士になって17年間で1000件以上の雇用理由書を書いているのですが、新規の事案での雇用理由書作成には、2~3時間はかかります。もちろん、業種ごとに基本の型はあるのですが、法務省から発行されている在留資格審査要領やガイドライン、直近の許可事例などを精査していると、どうしてもそれくらいの時間がかかります。一方、AIを使うと、基本情報を入力してエンターボタンを押すと、数秒後には雇用理由書の草案が完成しています。
3つ目は、雇用理由書作成に関する俗人化を防げるという点ですね。本来、雇用理由書というのは、就労ビザや職務内容に関してよく知っている人が書くことが望ましいです。つまり、行政書士や職場の上長(部門の責任者)などです。行政書士はともかく、職場の上長は忙しいことが多いですので、比較的時間のある若手にAIを使って雇用理由書の草案を作ってもらい、上長がチェックすることで効率化を図ることができます。

実態との乖離という大きなリスク
AIで雇用理由書を作成した場合、その内容と実際の業務に乖離が生じてしまうことがあります。例えば、雇用会社の事業内容については、AIが会社の公式サイト等をもとに書くのですが、その情報が古く、現状と大きく乖離している場合があります。また、職務内容について、かなり盛った内容になることもよくあります。実際には行わない高度な業務であっても、許可されやすいように、AIが上手に作文してくれるからです。
試しに、中古自動車の貿易業に従事する場合の雇用理由書をAIに書いてもらったところ、職務内容として、下記の内容が出力されました。
- 海外顧客との取引交渉(価格、納期、車両仕様等の調整)
- 海外市場の調査および販売戦略の企画立案
- 輸出に関する契約書類・税関書類の作成および確認
- 生産性、業務効率化指数に関する係数管理、および分析
- その他、付随する業務
この内容について、考えてみましょう。まず、1と2については、問題ないと思われます。問題は、3~5です。会社によって状況は異なりますが、これらの仕事がほとんどない、あるいは全くないこともあります。そして、付随する業務には、買い付けた中古自動車の洗車や運搬、部品解体などが含まれ、実際には、こうした業務が大半であるというケースも散見されています。
また、AIで作成した雇用理由書かどうかは、見る人が見ればすぐに分かります。AI技術が進化しているといっても、雇用理由書は、現行の法律知識や行政運用に関する正確な知識が求められる文書です。平均的な審査官は、年間1000件以上の雇用理由書を審査します。専門家が事案を精査し、汗をかきながら書いたものなのか、AIがさくっと書いたものなのかは、一瞬で見抜くでしょう。そして、当然ながら、AIで作成した雇用理由書の信憑性は低いと判断されやすいです。
そして、AIの文章は「刺さらない」というデメリットもあります。技人国に該当する仕事かどうかの微妙なケースでは、審査官の裁量というのは非常に重要です。法律的な話になりますが、技人国ビザの要件の1つに、「在留資格相当性」というものがあります。分かりやすく説明すると、在留資格を許可しても良いと判断できる相当の理由があるということです。具体的には、雇用の必要性や、客観的に大卒相当の仕事であることを審査官に響くように説明する必要がありますが、これをAIに全面的に任せるのは難しいです。AIは「優等生の文章は書けるけれど刺さらない」ことが多いからです。
結論として、一言で表現するなら、AIはたたき台としては最強。でも、仕上げには「人間が必要」ということですね。





