本稿は、月刊人材ビジネス誌 2020年9月号で執筆した内容を加筆修正して、掲載しております。 |
2019年4月に、出入国在留管理法が改正され、特定技能という新しい在留資格が生まれました。当初の予定では、2024年3月までの5年間で345,000人の特定技能外国人が誕生する見込みでした。単純計算では、制度開始から3年後(2022年4月)には約21万人の特定技能外国人がいる予定でした。ですが、2022年6月時点での特定技能外国人は、87,471人となっています。なぜ、増えないのか、その理由を考えてみました。
留学生は、特定技能ビザをどう思っているのか?
まず、国内の特定技能外国人の候補としては、留学生が多くを占めると思われます。しかし、多くの大学や専門学校では、留学生に対し、特定技能試験を積極的に勧めていません。なぜなら、現行の制度では、学校をやめて、特定技能外国人として働くことが可能だからです。また、学校側としては、学校で学んだ専門知識を活かせる技術・人文知識・国際業務ビザと比べて、単純労働可能な特定技能ビザを勧めにくいという事情もあるのかもしれません。また、特定技能ビザの仕組みが複雑すぎて正確に理解されていないことも要因の一つだと思われます。実際、ある留学生は、特定技能ビザを一度取ってしまうと、二度と他のビザには変更できない、永住ビザも取れないといった誤解をしていました。こういう留学生も少なくないと思われます。
また、特定技能ビザが許可されても、最初は1年ビザとなる可能性が非常に高いです。出来たばかりの制度であるため、いきなり3年ビザや5年ビザが許可されることは少ないでしょう。一方、技術・人文知識・国際業務ビザでは、いきなり3年ビザや5年ビザが出ることが珍しくありません。ビザ更新手続きというのは、我々日本人が考える以上に、外国人にとって負担となります。更新手続きをするためには、更新の申請と、新在留カードの受領のため、平日に出入国在留管理局に行く必要があります。それぞれ半日以上をつぶすことになります。また、更新手続きには、会社側の書類や会社代表印の捺印も必要です。その都度、会社にお願いし、場合によっては上司に頭を下げ、会社側の書類を用意してもらうことに、かなりのストレスを感じている外国人もいるようです。
この点は、2019年5月に運用開始された特定活動46号(本邦大卒者)にも言えることです。特定活動46号ビザは、ものすごく簡単に説明すると、日本語を使う要素があるなら、単純労働だろうが、現業労働であろうが許可される就労ビザです。つまり、技術・人文知識・国際業務ビザではできなかった仕事ができるビザです。ですが、外国人の間では、このビザの人気が高くありません。原則、1年ビザとなるからです。
特定技能ビザは、転職できる
次に、採用する企業側の声を聞いてみました。多くの企業に共通する意見として、特定技能ビザは転職が可能であるという点です。特定技能ビザの対象業種は、慢性的な人手不足の業種です。ですから、短期間で転職されてしまうと、採用した意味がないからです。転職を特に嫌う企業は、従来制度である「技能実習生」を好む傾向にあります。技能実習生は制度上、転職が不可能であり、日本での生活に良い意味で慣れていないため、あまり擦れていないことが多いです。特に来日したばかりの実習生は素直で真面目な人が多いです。企業からは、そうした勤務態度が好まれるようです。実際、現時点で特定技能外国人は3,987人程度ですが、技能実習生は40万人以上います。直近5年間で、15万人以上も増えています。
特定技能外国人が増える動きもある
特定技能外国人のネガティブな面ばかりを書いてしまいましたが、政府としては、特定技能外国人を増やしたいという方針を打ち出しています。各地に相談機関を設け、周知活動にもかなりの予算が使われているようです。
また、近年、都市部を中心に、特定技能試験対策コースを設ける日本語学校も出てきました。従来、日本語学校卒業後は、専門学校や大学に進学することが前提であり、多くの日本語学校でもそのように進路指導をしていたのですが、近年の留学生数の減少により、方針転換が行われているようです。つまり、早く日本で働きたい外国人のニーズに合うように方針転換するという動きがあります。
特定技能外国人は、元留学生だったり、元技能実習生だったり、ある程度の日本語力とその業種についての基礎知識を持ち合わせています。元技能実習生については、3年間、日本で働いたという実績もあります。こうした良い面が正しく評価され、今後、特定技能外国人が少しずつ増えていくとよいのではないかと思います。
この記事を書いた人 つくばワールド行政書士事務所 行政書士 濵川恭一