今回は、ビザ申請を専門に行政書士事務所を運営されている濵川(はまかわ)行政書士に、外国人材ビジネスについてお話を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。
濵川よろしくお願いいたします。
これは以前のインタビューでも触れていただいた話題になりますが、濵川さんは行政書士になる前に、人材紹介会社で働かれていたのですよね。
濵川はい、前職では、外国人材に特化した人材紹介会社で働いておりました。スタートアップの会社でしたので、私は、企業への営業、外国人応募者との面談、面接指導、一時面接の同席などを担当しておりました。
ですから、外国人材ビジネスのやりがいだけでなく、その厳しさ、難しさも身をもって体験しました。
外国人採用を検討される企業さんというのは、そもそも、どのようなニーズをお持ちなのでしょうか?
濵川少し専門的な話になってしまいますが、企業側では技人国ビザ(※技術・人文知識・国際業務ビザのこと)での採用を希望されるケースが非常に多いです。
技人国ビザはホワイトカラーを想定した就労ビザなのですが、その職務で必要とされる能力によっては製造現場でも許可される場合があります。
ただ、職務内容を正確に文章や図で表現し、それが技人国ビザで要求されている業務水準を満たしていることを説明することには、相応のテクニックが必要となりますね。
具体的には、どのようなテクニックでしょうか?
濵川在留資格に関する法律知識はもちろんですが、職務内容を正確に理解する能力、それを分かりやすい文章や図で表現することが必要になります。
在留資格の審査官のほとんどは文系出身者ですので、理系の専門用語を使っても理解してもらえません。
なるほど、在留資格の申請では、審査官側の環境に合わせた配慮も必要ということですね。たとえば職務内容の説明不十分によって、技人国ビザが許可されないというケースもあるのでしょうか?
濵川かなりあると思います。人材紹介会社や派遣会社では、営業担当者もしくは事務担当者が技人国ビザの申請サポートをすることが多いと思いますが、職務内容と在留資格の正確な知識の両方を把握することは結構大変です。
また、就労ビザは大きく分けても20種類、細かく分けると100種類くらいあります。
そして、細かい要件や申請ルールは頻繁に変更になります。場合によっては、技人国ビザ以外で、利用しやすいビザがあるのですが、これらの最新情報を担当者が常にキャッチアップするのは現実的ではないと思います。そんなことをしていたら、本来業務に支障が出ますので、在留資格に関しては、我々行政書士にお任せいただければと思っています。
専門的に取り扱っている人にお願いすれば安心というわけですね。とはいえ、行政書士さんでも職務内容を正確に理解するのは難しくはないですか?
濵川はい、同じ業界にいても他社の職務内容を正確に理解し、それを文章や図で表現するのは難しいと思います。他業界ならなおさらだと思います。
ただ、私は、高等専門学校で電子工学、大学では情報を専攻していたので、理系の基礎知識はあると思います。また、行政書士になってからも関東圏にある工場や研究施設を100ヶ所以上見ていますので、製造業の現場がどのようになっていて、どのような仕事があるのかということをイメージできます。
その上で現場を拝見できれば、技人国ビザの職務内容に該当するのか、他の就労ビザのほうがよいのか、ほぼ判断できます。
これまでの経験や事例の蓄積をもとに、適切な判断を行ってもらえるということですね。ところで、外国人材ビジネスならではのニーズはありますか?
濵川多くの人材会社から言われることは、お客様(外国人が実際に勤務する企業)から、紹介ではなく、派遣で採用したいというニーズが高いということです。
その理由は、雇用管理に稼働をかけたくない、何かあった時の雇用責任を取りたくないということが背景にあるようです。
この点について、濵川さんのほうではどのように対応しているのでしょうか。
濵川まず、人材会社の意向を聞きます。派遣で人材を送り出したいのか、できれば紹介したいのか、売上になるならどちらでも構わないのか。その上で人材会社の利益になるような提案を心がけています。
例えば、できれば紹介したいということでしたら、紹介後の雇用管理をオプションで付ける、その雇用管理のサービスメニューを一緒に考えるといったことを行っております。また、何かあった時に責任を取りたくないということについては、最近の検挙事例を調べて参考にしていただくこともあります。
検挙事例と言われるとドキッとしてしまいますね。具体的にはどのような事例があったのでしょうか。
濵川私が衝撃を受けたのは、2021年12月に起きたN社事件です。何度も報道されているので実社名でもよいのですが、ここでは匿名にします。
人材派遣会社から派遣された外国人の不法就労に関する事件でしたが、派遣会社ではなく、派遣先企業が検挙されるのは非常に珍しいケースです。
事件の概要を紹介します。同社で、ネパール人を工場で不法就労させたとして、警視庁組織犯罪対策1課は、入管難民法違反(不法就労助長)容疑で、食品メーカーのN社と、同社工場の採用担当の係長を書類送検しました。
同社では、人材派遣会社を通じ、外国人約20人を作業員として受け入れていました。労働時間や業務内容は実質的にN社が決めていたといいますが、N社は取材に対し、「派遣会社に依頼していたので詳細を把握できなかった」とコメントしています(※時事ドットコムニュースより)。
派遣先が検挙されてしまうのですね。
濵川不法就労者を派遣・紹介すると相手先企業にも甚大な損害を与えることになりますので、十分な注意が必要ですね。
ここで話題が少し変わりますが、最近(※このインタビューは2022年3月)よく話題に出るようになった単語に「特定技能」というものがあります。特定技能外国人については、濵川さんのほうでどのようなサポートをされていますか?
濵川特定技能の在留資格で外国人を雇用するためには、法律で定められた10の支援を行う必要があります。
その支援を行うためには、事前に受入体制を整備する必要があります。コストもかかります。場合によっては、特定技能外国人の採用はコストに合わないこともあります。
採用してから、こんなはずではなかったという事態にならないために、具体的にどのような準備が必要で、どれくらいコストがかかるのかということを見積もったり、受入企業の社員さん向けの受入勉強会を開催したりしております。
技能実習生の制度より活用しやすいというイメージが先行している気もしますが、この制度を自社でも活用するという場合にはしっかり体制を整えて準備を怠らない必要がありそうですね。最後になりましたが、外国人の人材ビジネスには、今後どのように関わっていきたいと思われていますか?
濵川はい、士業やコンサルタントは、机上の理論しか言わない、机上の理論で動くと感じておられる方も多いと思いますが、私は、人材紹介会社で働いた経験があります。
現場の厳しさ、苦労もある程度共感できると思います。机上の理論的なコンサルではなく、現場のニーズに即したサポートをしたいと思っています。
在留資格制度は、現場のニーズに即した形で、どんどん変化しています。常に最新の法制度や情報にキャッチアップし、外国人の人材事業を行う会社の利益に貢献できればと思っております。
本日は外国人の人材ビジネスとの関わりを中心に、お話を伺いました。ありがとうございました。
濵川ありがとうございました。