ホワイトカラー職に従事する外国人は、原則として、「技術・人文知識・国際業務」という在留資格(通称、技人国ビザ)を取ることになります。技人国ビザを申請する際には、書式自由の「雇用理由書」を提出するのですが、その作文能力でビザの許可率が変わるという噂が存在します。
審査官の裁量要素が大きい技人国ビザ
外国人が日本で働くためには、就労可能な在留資格(通称、就労ビザ)が必要です。就労ビザは、職種によって種類が分かれており、現在約20の就労ビザがあります。その中でも、審査が不透明だと言われているのが、技術・人文知識・国際業務ビザ(以下、技人国ビザ)です。
技人国ビザの対象となる仕事は、一定レベルの専門知識を必要とする仕事です。ですが、この「一定レベル」かどうかというのは、個々の事案によって個別に判断されます。
審査官の裁量による部分も多く、同じ規模の会社で同じような仕事であるにもかかわらず、一方は技人国ビザが許可され、他方は許可されないという事例が多数出ています。また、同じ会社であっても、外国人A(新卒)は5年ビザが許可され、外国人B(実務経験5年以上)が1年ビザしか許可されないという、一見不条理なことも起きています。
審査の根幹をなす原理原則とは
こうした実態があるため、技人国ビザの審査は「運」であるとか、「作文」によって結果が左右するとか、いろいろな噂が存在しています。ですが、明文化された原理原則は存在します。その原理原則が、①出入国管理法、②在留資格審査要領、③在留資格ガイドラインです。その他、法務省の通達や過去の判例、内部ルールなどもあるのですが、ここでは省略します。
1つずつ、簡単に説明します。
①は、出入国管理に関する法令です。
②は、具体的な許可基準が詳細に書かれた文書です。全体で3000ページ以上、キングファイル5冊分くらいになります。
③が一番分かりやすい審査基準です。正確にはガイドラインごとに正式名称があります。技人国ビザに関してよく使われるガイドラインの正式名称は、「『技術・人文知識・国際業務』の在留資格の明確化等について」です。出入国在留管理局のホームページで公開されています。
留意すべきことは、実質的に審査の根幹をなす②③は随時変更になるため、過去に許可になったからといって今回も大丈夫という保証はどこにもないということです。
現行の技人国ガイドラインに書いてある内容
現行の技人国ガイドラインは、2024年2月に発行(改訂)されたものです。全体で29ページあります。まず冒頭で、技人国ビザに共通する審査基準が書かれており、別紙にて、実務研修に関する規定、許可・不許可事例、ホテル等における技人国ビザの審査基準が具体的に書かれています。この中から、特に重要な項目について、わかりやすく解説します。
大学の専攻と職務内容の関連性はどの程度必要か?
この点について、技人国ガイドラインには、下記のように記載されています。
「大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授・研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とし、(中略)このような教育機関としての大学の性格を踏まえ、大学における専攻科目と従事しようとする業務の関連性については、従来よりも柔軟に判断しています」
この「柔軟に判断」という表現はあいまいですが、現場感覚としては、かなり緩やかに審査されています。例えば、文学部東洋歴史学科を卒業した留学生がIT企業にプログラマとして入社する際の技人国ビザは問題なく許可されています。
また、大学の場合、1,2年生時に教養科目を履修していることが多いので、その教養科目との関連性も考慮されます。
専門学校卒業者の関連性に関する原則と例外
他方、専修学校は、職業若しくは実際生活に必要な能力を育成し、又は教養の向上を図ることを目的とするとされている(学校教育法第124条)ことから、原則として、専修学校における専攻科目と従事しようとする業務については、相当程度の関連性を必要とします。つまり、技人国ビザが許可されるためには、専攻内容と職務内容に相当な関連性が必要となります。これが原則です。
ただし、例外が2つあります。
1つ目が、文部科学省の認定を受けた専修学校の専門課程の卒業者については、専攻内容と職務内容の関連性は柔軟に審査されます。
現在、約1500の専門課程が認定されています。ざっくりいうと、日本にある専門学校の約半分が該当します。
2つ目の例外は、専門学校を卒業後、3年以上、専攻科目と密接な関連のある職務に従事していた場合です。この場合も、専攻内容と職務内容の関連性は柔軟に審査されます。例えば、専門学校でウェブデザインを専攻していた外国人が、3年間ウェブデザインの仕事に従事した後に転職する場合、転職先の仕事がウェブデザインとは直接関係なくても柔軟に審査されるということです。
企業カテゴリとは
最後に、企業カテゴリについても補足します。企業カテゴリも無視できない要素です。ある意味、理不尽な話なのですが、技人国ビザの審査では、企業の規模によって、カテゴリ1~4に分けられます。ものすごく簡単に言うと、大きい会社ほどビザが取りやすいということです。勿論、例外はあります。
定義 | 該当例 | |
カテゴリ1 | 上場企業、国立研究開発法人等 | 上場企業 |
カテゴリ2 | 給与所得の源泉徴収額合計が1000万円以上の企業 | 中堅企業 |
カテゴリ3 | 給与所得の源泉徴収額合計が1000万円未満の企業 | 中小企業 |
カテゴリ4 | 上記に該当しない企業、個人 | 設立1期目の企業、個人事業主 |
私も、行政書士になったばかりの頃、この事実を知って、びっくりしました。ただ、上場企業等であれば、審査官から見た時に、仕事内容等が分かりやすい、イメージしやすいという理由から、こうなっているようです。あと、上場企業等であれば、外国人就労に関するコンプラアンスを守る仕組みができているからというのも理由のようです。
この記事を作成した人 つくばワールド行政書士事務所