本記事は、月刊人材ビジネス誌 2025年1月号で執筆した内容を加筆修正して記載しております。
2025年の外国人雇用についてのトピックス
日本で働く外国人が230万人を突破し、育成就労制度への移行措置など、2025年には外国人雇用に関するさまざまな新しい動きがありそうです。こうした動きについて解説します。
技能実習制度→育成就労制度への段階的な移行
技能実習制度から育成就労制度への移行スケジュールは図のようになっています。
2024年6月に、技能実習制度に関する法律が改正され、公布されました。2025年には、主務法令等が作成され、それらを基に、分野別運用方針が作られます。運用方針とは、実務上の細かいルールを記載したものです。そして、予定では、2027年頃、改正法が施行されます。改正法が施行された後、おそらく完全移行への移行期間が2~3年用意されると思われます。ですから、育成就労制度への完全移行は、2030年頃になる見込みです。
特定技能ビザで訪問介護が可能に
これまで、特定技能ビザでは施設内での介護業務しか認められていませんでしたが、2025年中の実施を目指して、訪問介護を認める方向で調整が進められています。現時点での情報ですが、訪問介護に従事するためには、「介護職員初任者研修」を修了していることが条件になる見込みです。
在留資格の審査期間がさらに長期化傾向に
2025年、特に1月から6月にかけての上半期には、在留資格の審査期間がさらに長期化する可能性が高いです。これまでも、在留資格の審査には、数か月、長いときには半年以上かかるといったケースがありました。審査期間が長引く理由として、2022年3月に新型コロナ感染症の感染拡大に伴う入国制限を緩和したことにより、それまで待機していた多くの技能実習生が入国しました。この時期に入国した技能実習生が実習修了時期を迎えるため、特定技能等への在留資格変更申請が大幅に増加するためです。加えて、昨今の外国人労働者の増加により、通常の在留資格申請件数も増えています。
こうした状況であるため、この時期に外国人を採用する場合、在留資格申請をできるだけ早めに行うことをお勧めします。迅速に申請するため、行政書士等の専門家に依頼することを検討してもよいかもしれません。専門家に依頼することで、煩雑な在留資格申請手続を外注できるだけでなく、法改正や他社の外国人採用事例など、実践的な情報を教えてもらえるなどの付加価値があります。
今、外国人雇用に携わる人が知っておきたいこと
外国人雇用の現場で起こっているトピックスをいくつか紹介します。
在留資格の取消件数が増加
2023年に在留資格の取消があった件数は1240件でした。2022年の取消件数である1125件と比べると115件増加しており、過去最高の件数となっています。国別に見ると、ベトナム・中国・インドネシアが上位を占めています。
在留資格取消となる理由の多くは、在留資格で認められた活動を3ヶ月以上行っていない場合です。3ヶ月経てばすぐに取り消されることはないですが、悪質な場合や、本来活動を行う見込みがないと判断された場合、在留資格取消となります。例えば、技能実習生が失踪して、技能実習生としての活動を行っていない場合ですね。
在留資格別の取消件数をみると、「技能実習」が983件と最も多く、全体の約8割を占めています。ここで注目すべきことは、1年目の技能実習が622件、2~3年目が272件、4~5年目が89件となっていることです。つまり技能実習生は1年目に失踪する割合が高いということです。最初が肝心ということですね。
次いで、「留学」が183件となっています。これは、大学や専門学校を退学した後も引き続き日本に残り、アルバイトをしていたケースが多いです。
不法就労助長罪での処分も増加傾向
不法就労助長罪で摘発される理由としては、「在留資格のない」外国人を就労させていたケースが大半です。例えば、短期滞在ビザで来日してそのまま不法滞在している外国人を働かせているといったケースです。このケースに加え、最近では、「在留資格はある」が、その在留資格では認められていない活動をさせたために摘発されるという事案が増えています。代表的な事案としては、失踪した技能実習生を雇用する、技術・人文知識・国際業務の在留資格を持つ外国人に建設作業や工場内での組立作業をさせるというケースです。
2024年に公布(2027年までに施行)された改正出入国在留管理法では、不法就労助長罪の罰則が、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはその併科となっており、より厳罰化されています。
さらに、人材会社の場合、不法就労助長罪が適用されることで、有料職業紹介免許や労働者派遣事業免許も取消処分となります。取消処分となった場合、5年間、営業停止になりますので、自社だけでなく取引先にも影響を与えてしまうため、その影響は絶大です。
技能実習生の借金額は国によって異なる
技能実習生が来日前に母国で多額の借金をしていることは、今では常識になっていますが、その額が国によって大きく異なるのをご存知でしょうか。
出入国在留管理庁では、技能実習生や特定技能外国人の借金について把握するため、調査を実施し、その結果を公表しています。
来日前に母国で借金をしている技能実習生は約55%、借金の平均額は約54万円ですが、国によって借金の額は異なります。
借金が一番多かった国はベトナムであり、その平均額は日本円で約67万円です。その次がカンボジア(約57万円)、中国(約52万円)と続きます。そして、一番借金が少ない国はフィリピン(約15万円)です。フィリピンでは政府方針として、本人から仲介手数料を徴収することを禁止しているため、実費にかかる費用のみを本人が負担しています。
なお、技能実習生が来日1年目に受け取る手取りの給料の平均値は14万9,146円です。事前に聞いていた給料とほぼ同じと回答した技能実習生は、約79%います。一方、聞いていた金額より少ないと回答した人が21%です。当然、後者の実習生が、採用のミスマッチや失踪につながる可能性が高いです。半分以上の技能実習生は給料の数か月分の借金をして来日しています。私達日本人が給与の数か月分を借金することを考えると相当な覚悟が必要だと思います。ですから、雇用する側としても、事前説明や面接時において、できるだけ正確な情報を伝えてあげることも重要だと思います。
外国人材は労働者ではなく財産
昨今の円安などの影響で、「日本で働きたい外国人が減っている」という声が聞かれます。
例えば、フィリピン人看護師を例にとると、日本で介護士として働く場合、年収は300万円程度ですが、日本語を覚える必要があります。日本で介護士として働くための日本語力は、最低でも日本語能力試験N4レベルです。約1500語の語彙を覚え、漢字を300個覚える必要があります。感覚としては、私達日本人がタガログ語の語彙を2000語覚えるようなものでしょうか。つまり、相当な努力が必要です。
一方、米国で看護師として働くと、年収は1500万くらいもらえます。フィリピン人ですから、もともと英語が話せます。ですから、言葉を学ぶための労力はほとんどありません。
普通に考えると、日本で働こうとは思わないでしょう。それでも、日本で働くことを希望するフィリピン人はいます。現在、EPA介護士として日本で働くフィリピン人看護師は約1000人、介護の特定技能ビザで働くフィリピン人は約4000人います。
彼らに、日本を選んだ理由を聞くと、地理的に比較的近い、治安が良い、清潔な環境、人種差別が少ない、日本が好きといった回答があります。こうした日本の良い点を好きになってくれる外国人も多くいます。
私は、これまで数多くの外国人採用企業の経営者や人事担当者にインタビューをしてきたのですが、外国人採用に成功している企業の方が決まって言う言葉があります。
「外国人材は、労働力ではなく財産です。うちの宝です。」
結局は、この気持ちを持っていれば、企業にとっても、外国人材にとっても、Win-Winの関係になれるのだと思います。
この記事を作成した人 つくばワールド行政書士事務所 行政書士 濵川恭一