
2026年10月、出入国在留管理庁から、「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン」が公表されました。
永住者が持っている永住者ビザというのは、在留期間や活動内容に制限がない、非常に安定した在留資格です。
分かりやすさ優先で乱暴な言い方をすると、労働基準法などの法律を守ってさえいれば、どんな仕事にもつくことができます。合法的な仕事であれば、単純労働であっても、夜の仕事でもOKということですね。
その一方で、一定の場合には、永住者の在留資格を取り消すことができる制度が設けられています。
今回のガイドラインでは、
- どのような場合に永住者の在留資格取消しの対象となるのか
- 税金や社会保険料を滞納するとどうなるのか
- 在留カードに関する義務違反(住所変更しなかった等)はどう扱われるのか
- 犯罪を犯した場合はどうなるのか
- いきなり永住者資格が取り消されて国外退去になるのか
といった点について、具体的な考え方が示されています。
この記事では、今回のガイドラインのポイントを分かりやすく解説します。
- 1.新しいガイドラインはいつから運用される?
- 2.そもそも、永住者の在留資格が取り消されることがあるの?
- 3.税金や社会保険料を滞納すると永住者資格が取り消される?
- 4.どのような税金・社会保険料の滞納が問題になる?
- 5.逆に、税金を払えない事情があればどうなる?
- 6.滞納額はいくらから危険なの?
- 7.会社経営者の税金・社会保険料にも注意
- 8.犯罪を犯した場合はどうなる?
- 9.永住者資格に該当しても、すぐ国外退去になるわけではない
- 10.「永住者」から「定住者」に変更されると何が変わる?
- 11.家族がいる場合はどうなる?
- 12.自治体から入管への「通報」も制度化
- 13.永住者は何に注意すればいい?
- 14.「税金を滞納したら永住者資格を失う」は正確ではない
1.新しいガイドラインはいつから運用される?
今回のガイドラインは、2026年10月に公表されました。
ただし、実際の運用開始は2027年4月1日です。
したがって、2026年10月現在、すぐに新しい運用が始まるわけではありません。
今回のガイドラインは、永住者の在留資格取消しについて、どのようなケースが問題となるのかを明確にすることを目的としています。
2.そもそも、永住者の在留資格が取り消されることがあるの?
「永住者」という名前からすると、一度取得すれば、どのようなことがあっても日本に住み続けられるように感じるかもしれません。
しかし、永住者の在留資格も、法律上まったく取消しの対象にならないわけではありません。
今回のガイドラインでは、主に次の3つが重要です。
① 入管法上の義務を守らない
例えば、
- 在留カードに関する義務を守らない(住所変更などの届出)
- 在留カードの更新・再交付の申請をしない
- 在留カードの携帯・提示義務に違反する
- 偽造された在留カードを使用しようとする
- 不法入国者などの逃走を助けようとする
といった行為が問題となります。
ただし、在留カードを一度携帯していなかったからといって、それだけで永住者資格が直ちに取り消されるわけではありません。
例えば、うっかり在留カードを携帯し忘れた場合などについて、1回の義務違反だけを理由として在留資格を取り消すことは想定されていません。
一方、繰り返し指導されても義務を守らないなど、今後も義務を守る意思がないと認められる場合には、取消しの対象となる可能性があります。
3.税金や社会保険料を滞納すると永住者資格が取り消される?
今回、多くの永住者にとって特に気になるのが、この点ではないでしょうか。
結論からいうと、
単に税金や社会保険料を滞納したというだけで、直ちに永住者資格が取り消されるわけではありません。
ガイドラインでは、「故意に公租公課の支払をしないこと」が取消事由として問題となります。つまり、税金を払う気がないと、永住者ビザが取り消されるということですね。
ここでいう「公租公課」には、例えば、
- 所得税
- 住民税
- 法人税
- 固定資産税
- 国民健康保険料
- 健康保険料
- 国民年金保険料
- 厚生年金保険料
などが含まれます。
重要なのは、「滞納しているかどうか」だけではなく、「故意に支払っていないのか」という点です。払う意思があるのか、ないのか、それが重要になってきます。
4.どのような税金・社会保険料の滞納が問題になる?
ガイドラインでは、例えば次のようなケースが「故意に公租公課の支払をしないこと」に該当すると想定されています。
長期間滞納している
滞納が長期間に及び、さらに自治体に届け出ることなく転居するなどして、本人の所在が分からなくなっている場合です。
催告されても支払わない
何度も督促や催告を受け、さらに滞納処分を受けても、今後支払う意思を示さない場合です。
分納や猶予の約束を守らない
自治体などから分納や納付猶予の措置を受けているにもかかわらず、その約束を繰り返し守らない場合も問題となります。
脱税などで有罪判決を受けた
脱税などによって有罪判決を受けた場合は、おそらく永住者ビザは取消となるでしょう。
5.逆に、税金を払えない事情があればどうなる?
ここは非常に重要です。
ガイドラインでは、病気、災害、失業などのやむを得ない事情によって支払うことができない場合は、取消事由に該当しないと想定されています。
例えば、
- 事業不振
- 感染症の流行や災害による収入減少
- DV被害による生活困難
- ハラスメントを原因とする離職
などが例として挙げられています。
また、催告などに応じて支払う意思を示し、分納や猶予措置を受けている場合も、「故意に支払わない」ケースには該当しないとされています。
つまり、
「お金がなくて払えない人」と「払えるのに、払う意思がなくて意図的に払わない人」を区別する
という考え方です。
6.滞納額はいくらから危険なの?
ここも非常に重要なポイントです。
「税金を100万円滞納したら取消し」
「社会保険料を50万円滞納したら取消し」
といった一律の金額基準は設けられていません。
滞納額だけではなく、
- 滞納額
- 滞納期間
- 滞納回数
- 滞納した理由
- その後の支払状況
- 本人の収入・資産状況
- 本人の言動
- 今後支払う意思があるか
などを総合的に判断するとされています。
したがって、単純に「滞納額が○万円だから永住者資格が取り消される」という制度ではありません。
7.会社経営者の税金・社会保険料にも注意
今回のガイドラインで、会社経営者にとって重要なのがこの点です。
本人自身の税金や社会保険料だけではありません。
例えば、会社に課税された公租公課について、永住者本人がその支払義務を認識し、会社の経営や意思決定に実質的な影響力を持つ立場にありながら、あえて支払わない場合には、取消事由に該当する可能性があります。
特に、会社経営者や会社の実質的な経営者である永住者は、会社の税金・社会保険料についても注意が必要です。
8.犯罪を犯した場合はどうなる?
3つ目の重要な取消事由が、一定の犯罪によって拘禁刑に処せられた場合です。
対象となる犯罪は限定されています。
例えば、
- 住居侵入
- 文書偽造
- 殺人
- 傷害
- 窃盗
- 強盗
- 詐欺
- 恐喝
- 危険運転致死傷
など、一定の犯罪が対象となっています。
また、ガイドラインでは、これらの犯罪については執行猶予が付いた場合も含まれるとされています。
ただし、犯罪を1回犯したら必ず永住者資格が取り消される、という単純な仕組みではありません。
例えば、過去の犯歴などから犯罪傾向が進んでいると認められる場合などには、取消しが相当と判断されることがあります。
一方、一定の犯罪について拘禁刑を受けた場合には、初犯であっても、まず「永住者」から「定住者」などへの職権変更が想定されています。
9.永住者資格に該当しても、すぐ国外退去になるわけではない
今回の制度について、最も誤解してはいけないポイントです。
取消事由に該当したからといって、直ちに永住者資格を取り消して国外退去させるという仕組みではありません。
永住者が取消事由に該当すると判断された場合でも、まず、
「この人が今後も日本に在留することが適当ではないのか」
という点が判断されます。
引き続き日本に住むことが適当でないと認められない場合には、永住者資格を取り消すのではなく、法務大臣が職権で別の在留資格に変更することになります。
その場合、ガイドラインでは、ほとんどの場合、「定住者」への変更を想定しています。
10.「永住者」から「定住者」に変更されると何が変わる?
永住者と定住者では、大きな違いがあります。
永住者には在留期間の制限がありません。
一方、定住者には在留期間があり、更新の際には、改めて在留状況などが確認されることになります。
つまり、
「永住者資格を失う=必ず日本から出国しなければならない」
というわけではありません。
「定住者」など別の在留資格に変更され、日本に引き続き住める可能性があります。
さらに、職権変更後に改めて永住許可の要件を満たせば、再び永住許可を受けることも可能とされています。
11.家族がいる場合はどうなる?
今回のガイドラインでは、永住者本人だけでなく、家族関係や人道上の配慮についても考慮されることが明記されています。
取消しが相当と判断された場合であっても、特に家族関係や人道上の配慮が必要な場合には、永住者資格を取り消さず、別の在留資格への職権変更とする場合もあるとされています。
つまり、個々の事情を無視して一律に処分するのではなく、
日本への定着性や家族関係なども含めて総合的に判断する
という考え方です。
12.自治体から入管への「通報」も制度化
今回の制度では、国や地方公共団体の職員が、在留資格の取消事由に該当すると思われる外国人を知った場合、入管に通報できる制度も整備されています。
例えば、税金などの徴収事務を担当する自治体職員が、長期間の滞納や繰り返される督促などの状況から、「故意に公租公課を支払っていない可能性がある」と判断した場合には、入管への通報が可能です。
ただし、通報されたからといって、その時点で永住者資格の取消しが決まるわけではありません。
入管が事実関係を調査し、本人から意見を聴くなどした上で、取消事由に該当するかどうかを判断します。
13.永住者は何に注意すればいい?
今回のガイドラインを踏まえると、永住者の方は次の点に注意することが重要です。
① 税金を放置しない
支払うことが難しい場合でも、何もしないまま放置するのではなく、自治体などに相談することが重要です。
② 社会保険料・年金も確認する
税金だけではなく、健康保険や年金などの公的負担も「公租公課」に含まれます。
③ 在留カードの義務を守る
在留カードの更新や再交付、携帯・提示など、基本的な義務を忘れないようにしましょう。
④ 会社経営者は会社の公租公課にも注意する
会社の税金や社会保険料についても、実質的に経営を支配している永住者の場合には問題になる可能性があります。
⑤ 犯罪を犯さない
特にガイドラインで対象とされている一定の犯罪については、永住者資格との関係で重大な問題となります。
14.「税金を滞納したら永住者資格を失う」は正確ではない
今回のガイドラインについて、
「税金を滞納したら永住権を取り消される」
という説明を見かけることがあるかもしれません。
しかし、これは正確ではありません。
重要なのは、
「故意に公租公課を支払わないこと」
です。
さらに、実際に取消しをするかどうかについては、
- 滞納に至った経緯
- 滞納額
- 滞納期間
- 滞納回数
- 本人の資力
- 支払意思
- その後の対応
- これまでの在留状況
- 今後の在留意向
- 家族関係
- 人道上の配慮
などを総合的に判断することになります。
この記事の監修者 ワールド行政書士法人 行政書士 濵川恭一


